この記事では改めて「地方創生×NFT」の現状と課題と可能性について考察します。NFT市場が生まれてから数年が経ち、幾つかのユースケースが生まれてきた中で、徐々に見えてきたことを振り返り整理しつつ、その未来を考察します。
何故地方創生×NFTなのか?
地方創生とNFT
まずは簡単に”NFTとは何か”についておさらいします。NFTはNon-Fungible-Token(ノンファンジブルトークン)の略語であり、日本語訳すると非代替性トークンと呼ばれます。非代替性とは読んで字の如く、替えが効かないことを指します。イメージとしては、替えが効かない・交換できないデジタルデータを指してNFTと呼びます。
その技術の根幹にはブロックチェーンが採用されており、改竄不可能性、透明性、売買可能性が備わっています。つまり、誰かにコントロールされず、今誰が所有しているか、過去どのような価格変化や所有者の変化があるかが閲覧でき、いつでもリアルタイムで売買が可能となります。
このNFTの仕組みによって、ゲームアイテム、ドメイン、アート、音楽、動画、メタバースの土地、会員権、学位証明書など、様々なものがNFTとして発行されています。
そして、このNFTの仕組みは「地方創生」にも利用できるのではないかと言われており、実際に多くのプロジェクトが地方創生×NFTのプロジェクトをリリースしています。
では、一体地方創生とNFTはどのように繋がるのでしょうか。
地方創生の課題
そのために、以下の3つの施策が存在します。
- 定住人口を増やす
- 観光人口を増やす
- 関係人口を増やす
移住したり、観光したり、ふるさと納税等の寄付をしてくれる人を増やし、税収を増やしていくことで、その地方を盛り上げていく一連の活動のことを地方創生と呼びます。
しかし、実際にはこれらの活動がうまくいっていない自治体が多いです。ただでさえ日本全体での人口減が続く中で、東京への一極集中は変わらないため、地方は深刻な人口減と高齢化に直面しています。
また、地方創生の施策も場当たり的な短期施策が多く、長期的に地域を盛り上げていく施策を実行できている自治体は非常に少ないです。
これらを解決するための選択肢の1つとなるのが、NFTです。
地方創生にNFTを活用するメリット
以前書いた「ふるさと納税×NFT」を捉え直すの記事中にも紹介しましたが、これからの地方創生は定住人口を増やす前にその地域と何らかの関わりを持つ「関係人口」を増やしていくことが主流になっていくと言われています。総務省も地方の関係人口創出のためのプロジェクトを始動させています。
出典:https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html
その地域出身者だが現在は住んでいない人、観光として訪れたことがある人、転勤で一時的に訪れたことがある人、アニメの聖地や推しの出身地などで好意がある人、そういった人たちと関わりを持ち続けることで、いつか定住者になってくれるかもしれませんし、ふるさと納税等で寄付をしてくれるかもしれません。
そして、これからの地方創生の王道である関係人口の創出と非常に親和性が高い技術がNFTです。例えば、ふるさと納税してくれた人にNFTを配布する、観光に来てくれた人に来場証明NFTを配布する、出生者証明としてNFTを配布する、などなど、です。
NFTを配布することによって、地域とNFTホルダーの間に繋がりが生まれます。例えば、その地域で祭りを開催したり限定グッズを販売する際にその地域のNFTホルダーに先行で販売したり、お知らせを通知することも可能になります。いきなり一般に公開するよりも、過去に接触があった人たちへ向けたお知らせなので、反応率が高く、通知を受けた側も喜ぶ可能性も高いです。
また、その地域が盛り上がれば盛り上がるほど、保有するNFTの価格も向上するかもしれません。そうなれば、NFTを保有する人はその地域を盛り上げることが自身のメリットにも繋がるので、積極的にその地域を盛り上げる活動に協力します。
このように、NFTを活用すれば一回の接触から永続的な関係構築が可能になり、お互いにとってその地域が盛り上がれば嬉しいという共通のインセンティブを持つ関係にもなれます。
例えば、ASTARチェーン上に構築された「スマホ de おみやげ」サービスは、一度観光で訪れた観光客へデジタルお土産(来場証明)をNFTとして発行することで、観光客との長期的な関係構築を目指したプロジェクトです。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000116250.html
関係人口の創出以外にも、地域の観光資源(観光地や名産品など)をNFTに採用し販売することで、世界中にその観光資源をPRすることが可能となり、観光や名産品の購入に繋がる可能性もあります。また、NFT自体が新しい収益源へも繋がります。
このように、NFTと地方創生は非常に相性が良いと言えます。
NFTとコミュニティDAOを活用した地方創生
地方創生とDAO
続いて、地方創生とDAOについて解説します。
DAOとNFTを分けることにも違和感を覚えるかもしれませんが、NFTを活用した地方創生の中でもNFTを地方創生コミュニティ(DAO)の会員証として利用しているものとして分類して解説します。
尚、ここで言うDAOは必ずしもスマートコントラクトに規定されたDAOを指すものではなく、NFTが会員証となるコミュニティを含んでDAOとさせていただきます。
例えば、以前紹介した「夕張メロンNFT」は夕張市の名産である夕張メロンの引換券付き権利をNFTとして販売し、そのホルダーをデジタルアンバサダーとして共に夕張メロンを世界に広げていくコミュニティを構築しました。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000111965.html
→詳細はこちら「メロン×NFT」
この取り組みは一回限りの販売ではなく、販売後も続く関係を築くことを目的にしています。
その他にも、旧山古志村が発行する「Nishikigoi NFT」はデジタル住民票として機能し、山古志地域を盛り上げたいと思う人の集まり「山古志DAO」を形成しています。
出典:https://note.com/yamakoshi1023/n/n1ae0039aa8a4
→詳細はこちら「山古志DAOの第二段階を考察する」
コミュニティ(DAO)化のメリットとリスク
このようにNFTを活用してコミュニティを形成することで、より地方創生に前のめりで活動する人の数を増やすことが可能となります。普段よりもその地方に触れる回数も増え、まるでもう一つの故郷のように感じる人も増えるかもしれません。オフ会がその地域で開催されたり、その地域のお祭りがあれば、実際に土地を訪れる人もきっといるはずです。
事実、上記で説明した山古志DAOでは、開始から1年が経ち、実際に現地に訪れる人も増加し、なんと山古志村へ移住する人も現れたそうです。
整理すると、単発の観光や接触よりも、NFTを配布した方が永続的な繋がりは生まれやすいです。そしてさらに、NFTを配布もしくは販売した後にコミュニティ(DAO)形成まで行うと、より親密な関係を築くことが可能になり、地域の関係人口は増加します。
しかし、もちろんコミュニティ(DAO)形成は相当高いハードルが存在します。まずは地方自治体の方にweb3のリテラシーがなければいけませんし、数百人から数千人にリーチして購入に至ってもらうことも高いハードルがあります。
そして何より、コミュニティを常に活性化させ続けるコミュニティマネジメントが非常に難しいです。専任で数名が配属されない限り、深い関係値を築けるようなコミュニティを作り出すことはできません。
非常に親和性が高く、可能性に満ちた領域ですが、それなりのコミットメントが求められます。
国内の地方創生に関わるNFT活用事例と成功要因
NFTと地方創生の相性が良いこと、NFTの活用方法の中でも特にDAO化(コミュニティ会員権としてのNFT利用)が相性が良いことを解説してきましたが、もう少し視野を広げ、”国内の地方創生に関わるNFT活用事例”を紹介します。
NFT活用事例10選
- デジタル住民票 まさに山古氏DAOのように、住んではいないがその地域を応援したい世界中の人に向けてデジタル住民票をNFTで発行します。 ex)山古氏DAO、地元パスポート etc..
- 観光 観光地の来場証明NFTの配布や、実際にその地域を訪れた人に対して限定NFTを配布するなど、関係構築や集客に繋げます。また、旅行券をNFTとして販売する事例も存在します。 ex)スマホ de おみやげ etc..
- PR より認知を高めたいことをNFTを活用してマーケティングします。例えば、山梨県がNFTプロジェクトのNeoTokyoPunkusとコラボしてPR施策を実施し、非常に話題になりました。 ex)山梨県 × NTP etc..
- ふるさと納税 ふるさと納税制度の返礼品としてNFTを送ります。有名なイラストレーターに描いてもらったアートNFTや有名NFTプロジェクトとのコラボNFTなどを設定することで、NFTが欲しいから寄付をする人を呼び込みます。 ex)あるやうむ 北海道余市町 etc..
- 食 夕張メロンNFTのように、地域の特産品(実際の食品)の引換券となるNFTを販売します。 ex)夕張メロンNFT etc..
- 農業 地方の農業における課題解決のためにNFTを活用します。例えば、MetagriDAOと呼ばれる農家とパートナーが相互に支援する仕組みの実現を目指すDAOが存在しています。 →詳しくはこちら
- ゲーム その地域を関連したGameFiも存在します。例えば、遠野市を舞台とした「Game of the Lotus 遠野幻蓮譚」は実際の遠野を探索しながらゲームを楽しむことができるGameFiです。 →詳しくはこちら
- 伝統工芸品 その地方にある伝統工芸品の文化を守る、そして世界に広げることを目的としてNFTを活用している事例も存在します。例えば、未来着物NFTプロジェクトは着物を題材としたNFTを発行し、そのホルダーと共に着物の保全やメタバース上での着物開発などを行なっています。 →詳しくはこちら
- ゆるキャラ 地方のゆるキャラをNFTとして販売する取り組みです。すでにゆるキャラグランプリ公式トレーディングカードをNFTとして発行する実証実験がスタートしています。 ex)ゆるキャラグランプリ オリジナルトレカ etc..
- 通貨 その地域でしか利用できない地域通貨をNFTとして発行する取り組みです。例えば、有馬温泉、飯坂温泉でルーラNFTと呼ばれるその地域のカフェなどで利用できるNFTが発行されています。 ex)ルーラNFT etc..
成功要因4つ
さて、10の活用事例について紹介してきましたが、その中でもやはり成功しているものとあまり盛り上がっていないものに分かれます。もちろん、まだ市場自体が新しいのでこの段階で成功か否かを判断できないこともありますが、”少なくともこの要素は大切だよね”という観点を筆者の独断ではありますが、整理しました。
- 運営チームのNFTリテラシーが高い 間違いなく必要な要素がこちらです。地方自治体の職員の方のリテラシーが高いことはもちろんですが、その上でweb3企業と提携し、一緒にNFTを設計していくことをお勧めします。ミントサイトの設計や開発、コミュニティの運営方法など、NFT界隈の人脈など、実際に体験している人じゃないと理解していない部分も存在します。しかし、だからと言って丸投げしてはいけません。そもそも地方自治体の職員のリテラシーが高くなければどの企業に依頼すれば良いかわかりません。
- 地域全体を巻き込んでいる 上記に少し近いですが、例えば観光地のNFTや地域通貨など、地方自治体の職員が高いだけでは意味がありません。その地域の住民にもNFTを説明し、しっかりと巻き込んでいる必要があります。NFT施策が面白いと感じ観光地に行ったのに、観光地のスタッフが全くNFTのことを知らずに受け取れないことが発生してしまったら、もう2度と来てもらえなくなります。
- 利便性がある 新しい取り組みというだけで利用してくれる人も一定数いますが、NFTを活用することで利便性を向上させている必要があります。例えば、夕張メロンNFTでは引換券をNFTとして発行することで、引換前に要らなくなった場合や引き換えが難しくなった場合に転売できるようになっています。大切なのはNFTを活用することではなく、NFTを活用してより良いサービスを提供することです。
- グローバルに目を向けている NFTは世界が市場です。日本人だけでなくグローバルに存在する人へも視野を広げたNFTを実施すべきです。いろいろな事情や相性でまず日本人から始めることはあり得ますが、最初から日本人だけに向けてやるのは視野が狭くなってしまいます。
以上、4つの成功要因でした。どれも基本的なことですが、地方創生のNFTをきちんと運営していくには最低限必要となる要素です。
地方創生×NFTの課題と今後の展望
最後に、ここまでを整理した上で、地方創生×NFTの課題と今後の展望について解説します。
ここまでを整理
- 地方創生のために地方自治体は数々の施策を打っているが、東京への一極集中による人口減や高齢化は止まらず、財政難になる自治体は多い。
- 地方創生は「定住人口」より先に「関係人口」を増やすことが主流になってきている。
- 関係人口を増やすという目的において、NFTは非常に相性が良い技術である。
- 関係人口の増加だけでなく、NFTを活用することで地域資源の魅力アップ、新しい収益源の確保にも繋がる可能性がある
- NFTを会員証として機能させるコミュニティ(DAO)形成は関係人口の増加を目的とすると、より相性がよく効果が出やすい。
- 設立や運営ハードルは高いが、その分積極的にその地域を盛り上げてくれたり、実際に観光に訪れる人や移住する人に繋がる可能性も上がる。
- それ以外にも、多くの活用事例が存在しており、NFT×地方創生の領域は非常に盛り上がってきている。
地方創生×NFTの課題
ここまで述べてきたように可能性があり、盛り上がってきている地方創生×NFT領域において、課題はどこにあるのでしょうか。
大きく分類すると3つ挙げられます。
- 関係者のリテラシー問題
- ユースケースの少なさ問題
- 技術的に未成熟問題
1つずつ解説します。
○関係者のリテラシー問題
成功事例の分析の際にも挙げましたが、地方自治体の職員を含め、運営チーム全員のNFTに関するリテラシー向上が必須です。そしてこれは担当者だけが勉強すれば良いものではなく、自治体としての決裁をおろすためには、全員が一丸となって勉強する必要があります。また、地方自治体の取り組みに協力してくれる住民や実店舗の方々などへの説明も必要となります。
NFTが世界的に盛り上がってきているといえど、まだまだ知らない人が多いことも事実であり、新しいものを勉強するハードルが高いのも事実です。
地方でNFTを活用するにはまずはここをクリアする必要があります。
○ユースケースの少なさ問題
これは課題でもあり、仕方ない部分でもありますが、まだ世界的にみても成功事例が多くないので、”NFTをどのように活用すればよいか”に関して、手探りで進む必要があります。このユースケースの少なさが決裁が降りる難易度を上げています。
○技術的に未成熟問題
最後のこちらはブロックチェーン側の問題です。高いガス代やウォレットの問題など、ブロックチェーンという技術自体がまだ成長途中であるので、最適なUXを実現するサービスを提供できないという課題があります。
本気で地方自治体の住民に導入しようとしても、スケーラビリティの問題やガス代の高騰でむしろ逆効果になってしまうこともあり得ます。どのチェーンを選択するかも大切ですが、全体的に発展途上であることに違いはないので、ブロックチェーンの技術自体の進歩も待たれます。
今後の展望
幾つかの課題は存在するものの、筆者自身はそれらの課題を超えるほど可能性に満ちた市場だと感じています。
筆者自身も地方出身者で現在は出身地域には住んでいない1人です。ですが、出身地のために何かできることがあればしたいと常々思っています。そんな中で、NFTを活用したデジタル住民票などが販売されたら、間違いなく購入します。
おそらく、そういった人は非常に多いと感じています。上京した後でも出身地のニュースがあれば確認し、地元がテレビに映っていれば喜びます。ただ、今までは現地に行く以外の支援方法があまりありませんでした。
NFTを活用すればそういった人たちに対してアプローチが可能になり、住む場所が異なっても具体的な支援を貰うことが可能になります。また、出身ではないけどその地域に関心を持った国内外の人を呼び込むことも可能になります。
こういった関係人口を増やし、新しい収益源を作っていくことは、必ずしもNFTでなくても実現できるかもしれませんが、現時点の技術で最も適した技術はNFTであると考えています。
この先、ブロックチェーン自体の技術的な発展が進み、国民のリテラシーが向上してくれば、おそらく多くの自治体で成功事例が生まれます。そうなれば、一気にNFTの活用が進んでいくと予想されます。
これからもあらゆるユースケースに注目してリサーチしていきたいと思います。
以上、「地方創生×NFT」に関して、このタイミングで改めて整理の記事を書きました。非常に長くなりましたが、参考になる部分があれば幸いです!