1.写真NFTの基本概念
1-1. NFTとは何か?
NFTとは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称で、デジタルデータを独自かつ唯一無二の資産として扱うことができる技術です。ブロックチェーン技術によって、所有者の所在と取引歴の信頼性が担保され、写真やイラストなどのデジタルデータが独自の価値を持つ資産として扱われます。
1-2. 写真業界(個人で活動するフォトグラファーや写真家)におけるNFTの可能性と価値
個人で活動するフォトグラファーや写真家にとって、NFTがどのような可能性を与えるのか考えてみたいと思います。
1-2-1. 写真業界へのNFTの影響
NFTが個人写真家に与える影響としては、プラットフォームに依存せず、写真家個人主体でより自由な創作活動ができるようになると予測できます。
2010年代における個人写真家の主な活動の場は、TwitterやInstagramなどのSNSが主流でした。デジタルプラットフォームが台頭したことで、プロとアマチュアの境目が曖昧になり、SNS上で人気を集める個人写真家に光が当たるムーブメントが見られました。
それでは、このムーブメントは何によってもたらされたのでしょうか?
もちろん、写真家個人のセンスによる部分もあった一方で、各プラットフォームのアルゴリズムの影響も大きかったと思われます。つまり、プラットフォームが好む作風の写真はより多くの目に触れる一方で、アルゴリズムに乗らない写真作品との露出の差が生まれていきました。
現時点では、写真NFTは「写真データをNFT化しただけ」と思われがちですが、写真NFTはweb3の思想に沿って、新しい表現方法や価値観を提案する可能性があると筆者は考えています。
1-2-2. NFTによる新たなビジネスチャンス
写真NFTによる収益化は、他のデジタルアートと同様に、OpenSeaなどのマーケットプレイスで販売したり、2次流通で収入を得たりするなどの方法があります。また、ライセンスや撮影権のやりとりとしてNFTを活用してもいいかもしれません。しかしあくまで、収益化の選択肢が増えただけで、写真NFTを取り入れたからといって簡単に売れる、人気になれるわけではありません。
それでも、写真NFTは個人写真家に新たな活動手段をもたらしています。ファンビジネスの展開やDAO、コミュニティの形成など、さまざまな取り組みが可能になりました。
現在、写真NFTとしての正解がまだ見つかっていないことからも、個人の創造性がこれまで以上に求められていると言えるでしょう。
2.写真NFTの作り方と売り方
2-1. 写真NFTの作り方
2-1-1. 写真NFTの作成プロセス
- 写真データの準備: NFT化したい写真データを用意します。
- ウォレットの作成: NFTを管理するために、デジタルウォレット(例: MetaMask)を作成・設定します。これにより、ブロックチェーン上で資産を管理できるようになります。
- OpenSeaアカウントの作成: NFTマーケットプレイスであるOpenSeaにアカウントを作成し、デジタルウォレットと連携させます。
- NFT作成: OpenSea上で、「Create」ボタンをクリックし、写真データをアップロードします。作品の名前、説明、タグなどの情報を入力し、必要に応じてロイヤリティ設定を行います。
- ミント(NFT化): 入力が完了したら、「Mint」ボタンをクリックしてNFT化を行います。ブロックチェーンに写真データの情報が記録され、NFTとして認識されるようになります。
2-1-2. 必要なツールとプラットフォーム
以上は、一般的な写真NFTの作り方になります。
本プロジェクトを行うにあたって使用したのは「Thirdweb」と呼ばれるノーコードツールです。Thirdwebにて独自コントラストのNFTを作成しました。また、Thirdweb内の管理画面から、NFTの送付作業も自ら行なっています。
2-2. 写真NFTの売り方(オススメのNFTマーケットプレイスの紹介)
NFTは、NFT専用のマーケットプレイスがあります。ここでは写真NFTを販売するのに適しているマーケットプレイスを紹介します。
・OpenSea
OpenSeaは、世界最大のNFTマーケットプレイスです。利用者が一番多いのでまずはここがおすすめです。
・SBINFT
SBINFTは、日本発の公認アーティスト制によるパブリックチェーンNFTマーケットプレイスです。出品には審査がありますが、購入者からすると一定の品質が確保されていることになりますので出品が売上に繋がりやすくなります。
・LINENFT
LINE上でやり取りが完結するNFTマーケットプレイスです。LINEの利用者にダイレクトにアプローチできるのが最大の魅力です。また日本円で購入することおできます。
3.写真NFT事例:氷見の風景写真NFT(ふるさと納税返礼品)
写真NFTとしては国内初の取り組みとなる「まちづくりNFTアート」(氷見の風景写真NFT × ふるさと納税)についてご紹介していきます。
3-1. 氷見の風景写真NFTとは
3-1-1. 写真NFTプロジェクトの概要
本プロジェクトは、富山県氷見市を拠点に活動する写真家・北條巧磨(筆者)による、“後世に残したい氷見の風景写真”をNFT化した「まちづくりNFTアート」を、ふるさと納税返礼品として提供するものです。作品は全10種類 各作品5点限定(1点につき寄附額 5,000円)で、ふるさとチョイスのサイト内で販売されています。寄附者は作品のデジタル所有権を取得し、氷見市への寄附行為をデジタル上で証明することができます。
※ 「まちづくりNFTアート」は、転売などの2次流通を制限する譲渡不可のスマートコントラクト(SBT)を実装しています。
3-1-2. NFT化された氷見の風景写真の特徴
今回のコレクションテーマは「ー語り継ぎたい氷見の風景、未来へー」。多様な自然景観に恵まれた氷見の歴史は、まちの人々のさまざまな営みによって築かれてきました。これからも氷見の美しい風景と人々の営みを残していきたい、そう願い風景写真を選定しました。今回の作品では、人々の活動や自然とのつながりが感じられる日常風景を主に切り取っています。
そして、人口減少や担い手不足などのさまざまな要因によって、田舎の原風景が次第に失われていくなか、これらの風景写真は、アーカイブとしての記録だけでなく、未来への希望や願いも込められています。
3-2. 氷見市の魅力
氷見市のことを初めて知った方も多いのではないでしょうか。ここからは、氷見に住む筆者だからこそお伝えできる氷見市の魅力をお伝えします。
3-2-1. 氷見市の観光スポット
氷見市の観光スポットといえば、氷見漁港やひみ番屋街(道の駅)、氷見市漁業文化交流センターなどが挙げられます。しかし、氷見のディープな魅力を体験したい方には、1泊以上の滞在をおすすめします。その理由は、美味しい料理やお酒を楽しめるだけでなく、温泉で日々の疲れを癒すことができるから。旅館やゲストハウスを選んで、漁港直送の新鮮なお刺身や魚料理、お鮨を堪能すれば、氷見の虜になるのは間違いなしです。
翌日の朝には、海から昇る朝陽を眺めながら、海岸沿いを散策するのはいかがでしょうか。氷見の海を眺めながらのサウナやグランピングを楽しめるのも氷見ならではの贅沢です。
ゲストハウス「眺めのいい部屋」(氷見市中央町)
海越しの立山連峰を眺めながらのアクティビティも充実
最近は、I・Uターンによる移住者が増え、新しいお店が次々と開業しています。訪れるたびにまちが変化しているのも、氷見の魅力だと思います。
「考えるパンKOPPE」(氷見市中央町)
「BREWMIN’」(氷見市比美町)
「Bouno Pesce」旧オーナーより事業承継してオープン(氷見市南大町)
3-2-2. 氷見市の文化と伝統
氷見市には、大境洞窟住居跡や朝日貝塚、柳田布尾山古墳、阿尾城跡などの歴史的スポットが点在しているように、古くから人々の暮らしが続いてきました。そのため、文化や伝統が色濃く根付いており、また多くの祭りが開催されています。祇園祭、唐島祭、まるまげ祭り、ごんごん祭りなどの伝統行事は、地域の人たちと交流する絶好の機会です。各地区では獅子舞も盛んに行われています。歴史や文化に関心がある方は、氷見市立博物館や獅子舞ミュージアムをぜひ訪れてみてください。
樹齢約1,000年以上のイチョウ(上日寺|氷見市朝日本町)
木造和船「てんません」と国の登録有形文化財「みなとがわ倉庫」「旧藺製品倉庫」(氷見市朝日本町)
3-3. 氷見の風景写真NFTに込めた思い
まちづくりNFTアートには、氷見の海・街・山・人などをモチーフとした風景が写されていて、それらが“繋がっている”ことを10枚の写真を通して表現しています。時代の変化と共に繋がりが希薄化してしまった現代社会で、田舎のごくありふれた風景は、繋がることの大切さを改めて感じさせてくれるはずです。
朝日山公園(氷見市幸町)
3-3-1. 写真家の想いとビジョン
これまで、個人写真家が地域に対してできることは限られていました。特にSNSなどのデジタル空間では、個人写真家としての個性を発揮する難しさを感じていたのは、筆者だけではないはずです。筆者自身も、地域に入り活動するなかで葛藤と模索を繰り返してきました。
NFTが社会へ浸透してきたことは、地域に根ざした個人写真家に新たな可能性をもたらしました。特に本プロジェクトでは、氷見の魅力を発信するだけでなく、ふるさと納税を通した財源確保や関係人口の創出など、様々な観点から地域貢献ができるように設計されています。
もし氷見の風景写真NFTが多くの方のウォレットに入ることがあれば、地域とクリエイター、地域と寄附者、クリエイターと寄附者との間に新たなつながりが生まれるでしょう。そして、web3に精通した人材が氷見と繋がることで、想像以上の化学反応が起こる可能性もあります。それほど氷見の地域資源は豊富なのです。
まずは氷見の風景写真NFTを手にとっていただき、氷見の知られざる魅力を発見してもらえることを心から願っています。ぜひ氷見の魅力を筆者と一緒に語らいましょう。
3-3-2. 地域活性化への貢献
写真NFTにおける地域活性化への貢献は、地域の魅力発信以上の効果を望めると考えています。なぜなら、NFTを通じて、地域経済への繋がりと関係する人同士の繋がりを深められるからです。
地域ならではの写真NFTは、地域に根ざした写真家に新たな収入源を提供します。この収入は、個人写真家が持続可能な生活を送り、地域での活動を続けるための支援や応援となるはずです。さらに、彼らの活動および生活資金は、地域に還元されることを意味します。すなわち、地域の持続可能性を高める効果も持ち合わせているのです。
寄附者さまからご支援は地域のお店などに還元されます(レストラン トロイカ|氷見市窪)
そして、彼らの作品が広まれば、地域の魅力だけでなく、地域課題に光が当たる可能性もあります。たとえば、中心商店街の空洞化や地域から愛されているお店の後継者不足、文化・伝統の担い手不足、地域の存続を揺るがす大きな課題です。NFTを通して、地域と寄附者のつながりが深まれば、新たなアイデアやプロジェクトが生まれることも期待できるでしょう。
このように、NFTをきっかけに地域の魅力が高まれば、地域課題を解決できる可能性も高まって、地域の好循環が生まれることが予想されます。
アイデア次第で地域課題は魅力や価値に変わるかも(氷見市中央町)
3-4. ふるさと納税返礼品となった経緯
NFT化したデジタルアートがふるさと納税返礼品として出品できることを知ったのは、北海道余市町の取り組みがきっかけでした。ふと「NFT化した写真でも出品できるのでは?」と思い、氷見市さんに提案すると、しばらく経ったのち出品OKが出ました。簡単ですが、ふるさと納税返礼品となった経緯です。
3-5. 氷見の風景写真NFTの買い方
3-5-1. ふるさと納税を利用した購入方法
- ふるさとチョイスにアクセスします。
- 返礼品を選択: ご希望のまちづくりNFTアート作品を選択して申し込みます。
- ウォレットアドレスを記載・お申し込みの際に、メタマスク等のPolygonに対応したウォレットアドレスを記載します。
- 寄附決済の確認: 寄附決済が確認されると、寄付者さまの情報が出品者(筆者)へ通知されます。
- NFTの受け取り: 出品者(筆者)が寄付者さまのウォレットへNFTを送信し、受け取りが完了します。
3-6. コレクションギャラリー
3-6-1. オンラインで楽しむ氷見の風景写真NFT
本NFTは、SBTのため、他者へ転売や譲渡することはできません。しかし、私的利用の範囲内で、SNS等へのシェア、デジタルデバイスの壁紙、物理展示などをお楽しみいただけます。
OpenSeaのコレクションページでは、最新の取引状況がご覧いただけます。同じ作品を保有している方を確認することも可能です。
3-6-2. 3Dギャラリーの活用方法
本コレクションの3D展示を行うにあたって、「oncyber」というサービスを活用しました。3D空間で作品を鑑賞してみると新たな発見や解釈があるかもしれません。
3-6-3.その他の楽しみ方
デジタルデータをプリントして鑑賞することも可能です。プリントの種類によって、同じデジタルデータでも様々な雰囲気を楽しむことができます。
キャンバスにプリントすれば、まるで絵画ような雰囲気に
和紙(阿波和紙)にプリントした例
4.その他の写真NFT事例
- 「いただきますマン」いただきますマンは、 2年間毎日お弁当を食べる動画をYouTubeに投稿し、2021年1月にその画像をNFT化しました。OpenSeaで販売したところ、わずか1日で完売しました。YouTube投稿をベースにしたNFT販売のパイオニアとして、注目を集めました。
- 「椰子の木 写真NFT」ロサンゼルスを拠点とする写真家のWill Nichols(ウィル・ニコルズ)氏による100点に及ぶ椰子の木の写真NFTコレクションです。これまでの取引量は425ETH(約1億円、1ETH=25万円で計算)です。
- 「山古志村写真NFT(Beautiful Yamakoshi)」風景写真家の廣瀬翔さんによる新潟県山古志村の写真NFTです。山古志村の雄大な自然の写真がNFT化されています。
5.写真NFTを作る際の注意点
5-1. 写真NFTの著作権
5-1-1. 著作権の保護と侵害のリスク
写真NFTを作成する際には、著作権の保護と侵害のリスクに注意する必要があります。著作権は写真の作者によって所有されており、許可なく他者が写真を使用することは著作権侵害となります。写真NFTを作成する際には、著作権が適切に保護されていることを確認する必要があります。
5-1-2. 著作権者としての権利と義務
写真NFTを作成すると、著作権者としての権利と義務を持つことになります。著作権者としては、自分の作品を制御し、許可なく他者が作品を使用することを防ぐ権利を持ちます。また、自分の作品が不正使用された場合には、法的手段を取る権利もあります。一方で、著作権者としての義務としては、他者の著作権を尊重し、自分の作品が他者の著作権を侵害しないようにすることがあります。
5-2. 作品のオリジナリティの確認
写真NFTを作成する際には、作品のオリジナリティを確認することも重要です。自分自身の撮影した写真を使用する場合には、他者の作品との類似性を避けるように注意する必要があります。また、他者の作品を使用する場合には、適切な許可を得るか、パブリックドメインの作品を使用するか、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどの適切なライセンスを選択し、遵守する必要があります。
5-3. プラットフォームの信頼性とセキュリティ
写真NFTを作成する際には、NFTを取引するプラットフォームの信頼性とセキュリティにも注意が必要です。NFTの取引はブロックチェーン上で行われるため、プラットフォームのセキュリティや信頼性が重要な要素となります。信頼性のあるプラットフォームを選択し、NFTの取引に関するリスクを最小限に抑えるためにセキュリティ対策を講じることが重要です。
5-4. 法的な規制と法律の遵守
写真NFTを作成する際には、法的な規制や法律にも十分に注意する必要があります。各国には著作権法や知的財産法、税法などの規制が存在し、これらを遵守しないと法的な問題に直面する可能性があります。特に、NFTの取引に関する税金の取り扱いや法的な権利関係については、専門家の助言を受けるなどして十分に理解し、遵守する必要があります。
以上の点に留意し、写真NFTを作成する際には著作権の保護、NFTのライセンス、作品のオリジナリティの確認、プラットフォームの信頼性とセキュリティ、法的な規制と法律の遵守、著作者の個人情報の保護などについて十分に考慮することが大切です。プロの視点から、写真NFTの作成には慎重な対応が必要であることを念頭に置いて取り組みましょう。